著者
岩田 三枝子
出版者
東京基督教大学
雑誌
キリストと世界 : 東京基督教大学紀要 = Christ and the World (ISSN:09169881)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.64-87, 2015-03

覚醒婦人協会は、賀川ハル(1888-1982)ら30 代のキリスト者女性を中心発起人とし、1921 年3 月から1923 年8 月までの約2 年半にわたって展開された労働者階級の女性のための婦人運動である。労働婦人の人権問題や労働環境の改善を訴え、演説会開催や機関誌『覚醒婦人』の発行等の活動を展開し、新聞記事にも幾度も取り上げられた。大正期は、デモクラシー機運の高まりの中で、無産階級と呼ばれる庶民が社会において存在感を増す時代であったが、覚醒婦人協会は、女性の人権、キリスト教、労働者という大正期を反映する三つの要素を併せ持つという点で、大正デモクラシーを象徴する活動であるといえる。また、覚醒婦人協会の設立は、大正期から昭和初期にかけて興隆した婦人運動史の創成期にあたる点からも、その分野においての先駆的役割の一端を担ったともいえる。しかし、キリスト者が中心となって創設された活動でありながら、キリスト教の視点から活動の背景にある思想や意義を問うた研究は、管見の限りこれまでなかった。本稿の目的は、宣言文や綱領、そして機関誌『覚醒婦人』の分析から、特にキリスト教公共哲学の視点において覚醒婦人協会の性格を明らかにし、その現代的意義を提起することである。第1 節では覚醒婦人協会の概略を紹介する。次に、第2節では宣言文や綱領の内容を、そして第3 節では機関誌『覚醒婦人』の書誌内容をキリスト教公共哲学の視点から分析することで、賀川ハルが覚醒婦人協会において目指した「男女の協働」「キリスト教公共哲学的視点」等の特徴を浮き彫りにする。最後に結論として、覚醒婦人協会の今日的意義を提起したい。
著者
加藤 喜之
出版者
東京基督教大学
雑誌
キリストと世界 : 東京基督教大学紀要 = Christ and the World (ISSN:09169881)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.28-63, 2015-03

本稿は、十七世紀後半のネーデルラント連邦共和国において最も重要な神学者のひとりであったクリストフ・ウィティキウス(Christoph Wittichius、1625–87)の神学・哲学思想を、当時の文脈のなか、とくにスピノザ哲学との関係のなかで読み問いていくものである。具体的には、スピノザの『エティカ』(1677 年)の詳細な論駁がなされるウィティキウスの『スピノザ反駁』(1690 年)に注目することによって、当時のデカルト哲学の多様性、神学と哲学の関係、そしてスピノザの哲学がどのように彼の批判者によって読まれていたかを明らかにしていく。さらに、ウィティキウスの試みが、スピノザのラディカルな思想、特にその神の概念に応答する神学的に重要なレスポンスのひとつであることを示していく。まず第1 節では、ウィティキウスに関する研究動向を紹介していき、第2 節では、現代においては忘れられてしまったこの哲学・神学者の生涯と思想に光をあてていく。さらに第3 節では、『スピノザ反駁』の背景を明らかにし、第4 節では、ウィティキウスの『スピノザ反駁』のなかに現れる二つの論点を分析していく。